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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)2738号 判決

【判決理由】

右当事者間に争いのない事実と、その成立に争いのない甲第一号証から第三号証(甲、乙及び丙の各実用新案公報)及び鑑定人(省略)の鑑定の結果(ただし、甲登録実用新案に関する部分部分を除く)を総合すれば、次の(一)から(七)の各事実を認めることができる。すなわち、

(一) 甲登録実用新案は、パレツトの構造に関するものであり、

(1) パレツト皿盤の拇指挿入孔の孔蓋盤の裏面に突出枠を数個連設して、その間に筆軸挿入溝を形成すること、

(2) 右筆軸挿入溝が前方に向つて次第に拡開するように、突出枠を末広がり状にすること

という構造をその要部としている事実。

(二) 甲登録実用新案は、右構造により、

(1) 拇指で孔蓋盤の裏面を押圧してパレツトを保持する際、筆軸の端部を筆軸挿入溝に挿入することにより、筆軸も同時に保持し、かつ、よくこれを確保することができること、

(2) 筆軸の出し入れが拇指をちよつと浮かすことにより容易にできること、

(3) 挿入された各筆軸はそれぞれ相当の間隔を保つて開放するから、筆先と筆先とが互いに接触することがないこと、

という作用効果を挙げることを目的としている事実。

(三) もつとも、前掲甲第一号証中随所に散見される「連立V字状突出枠」又は「筆軸挿入V字状溝」という表現、とくにその登録請求の範囲欄の「前方に向けてそれぞれ開放する連立V字状突出枠7・7を突設し筆軸挿入V字状溝8・8を形成せしめてなる」との記載、及びその図面並びに鑑定人(省略)の鑑定の結果に徴すれば、単に、突出枠を末広がり状にすることにより筆軸挿入溝が前方に向かつて次第に拡開するように構成することだけでなく、突出枠を後端部において連続閉鎖することもまた甲登録実用新案の必須要件であるかに見えないではない。しかし、前記(二)の(1)(2)(3)の作用効果を挙げるための手段としては前記(一)の構造をもつて十分とし突出枠が後端部において連続していることは右目的の達成に何んら貢献するところがなく、また、前掲甲第一号証中には、突出枠が後端部において連続していることによる作用効果は勿論、そうでなければならない理由も全く記載されていないから、突出枠が後端部において連続していることが甲登録実用新案の必須要件であると解することは、前記「連立V字状突出枠」又は「筆軸挿入V字状溝」という文句に拘泥しすぎた見方といわざるをえない。これらの記載は、「V字状」という字句により、結局、突出枠を末広がり状にすることにより筆軸挿入溝が前方に向かつて次第に拡開するように構成するものであることを「V字状」という形状を借りて簡明直截にしようとしたにすぎないものと認めるのが相当であり、鑑定人(省略)の鑑定の結果中右と見解を異にする部分は、上記の理由から当裁判所のにわかに賛同しえないところである。

(四) 乙登録実用新案は、パレツトの構造に関するものであり、拇指挿入孔の蒸板裏面に多数の隔壁を突設するとともに、隔壁の各間隙と相まつて筆軸を二個所で保持できるように、右蒸板裏面の下側縁に突設された側壁に多数の逆V字状凹陥部を設けるという構造を、その要部としている事実。

(五) 乙登録実用新案は、右構造により、

(1) パレツトを机上等に載置するとき、筆軸を凹陥部に嵌合してその横方向への回転を阻止し、絵筆の落下を防止することができること、

(2) 拇指を挿入孔に挿通して蓋板の裏面に絵筆を押止する際、その軸を隔壁の各間隙に嵌合するとともに、その尾端部を凹陥部内に係合して、二個所で係止しうるから、強い力を要せずに絵筆を保持することができること、

という作用効果を挙げることを目的としている事実。

(六) 丙登録実用新案は、パレツト等における係合装置に関するものであり、

(1) 上部皿盤イの側縁に、上方に向かつて開口したU字状の係合孔11′を穿設した受部22′を突設し、これに連続して同側縁に内方への凹陥部33′を凹設するとともに、同側縁の中央部寄りの上半部に扁平状の突出縁4を設け、同突出縁4の背面中央に閊止壁を突設すること

(2) 下部皿盤口の側縁はこれを外方に僅々突出せしめて、その両端に突出部66′を設け、さらにこの突出部66′間に上記側縁を斜下方に延長せしめて係合縁7を構成し、上記側縁と係合縁7との間に段部8を設け、突出部66′の外方には係合突子99′を突設するとともに、同皿盤の下面中央に閊止壁10を構成すること

(3) 上下各皿盤イ、ロにおいて、係合孔11′に係合突子99′を、凹陥部33′に突出部66′をそれぞれ嵌入せしめ、また突出縁4の下面に係合縁7を嵌合すること、

という構造の結合をその要部としている事実。

(七) 丙登録実用新案は、右構造により、

(1) 上部皿盤と下部皿盤とを嵌合するに際しては、単に下部皿盤の係合突子を上部皿盤の係合孔に、下部皿盤の突出部を上部皿盤の凹陥部にそれぞれ嵌入しながら、下部皿盤の係合縁を上部皿盤の突出縁の下面に押入すれば足るので、その組立操作は著しく簡単であること、

(2) 係合突子が上方に抜出しようとする力は、突出縁が係合縁を下方に押圧しているので、完全に阻止されること、

(3) 上下両皿盤が相互に横方向に摺動して係合突子が受部を突破する危険は、下部皿盤の突出部を上部皿盤の凹陥部に係合することにより除去することができること、

(4) 上下皿盤はともにその背面における縁辺中央にそれぞれ閊止壁を具備しているので、両皿盤を開披したとき、これらが相互に当接して両者の開き過ぎを阻止することができること、

(5) 蝶番等を附設する必要がなく、構造が著しく簡単であるから、低廉に製造することができること、

という作用効果を挙げることを目的としている事実。

三 被告の各製品

被告の製品が別紙目録(一)及び(二)記載のとおりであることは、当事者間に争いがなく、この事実に、前掲甲第一号証から第三号証及び鑑定人(省略)の鑑定の結果(ただし、後記採用しない部分を除く)を参酌して考察すると、次の各事実を認定しうべく、鑑定人(省略)の鑑定の結果中の当裁判所の採用しがたい部分を除き、他にこの認定を左右するに足る資料はない。すなわち、

(一) 甲登録実用新案との比較において

(1) 被告の各製品は、パレツト皿盤に設けられた拇指挿入れの孔蓋盤の裏面に四個の突出壁を逆ハの字状に並設して、その間に前端部及び後端部が開放し、かつ、前方に向かつて次第に拡開する筆軸挿入溝を形成していること。

(2) 被告の各製品は、右構造により、甲登録実用新案が目的とする前記二の(二)の作用効果をすべて挙げることができること。

もつとも、被告の各製品における筆軸挿入溝の前方に向かつての拡開の度合は前掲甲第一号証(甲実用新案公報)記載の図面のそれに比し多少小さく、鑑定人(省略)の鑑定の結果中には、このことを理由に、被告の各製品は前記二の(二)の(3)の作用効果を挙げることが困難である旨の見解が述べられているが、被告の各製品においても、筆軸挿入溝は、その度合は、あるいは小さいにしても、前方に向かつて次第に拡開するように形成されているから、これにより挿入された各筆軸はそれぞれある程度の間隔を保つて開放し、したがつて、筆先と筆先とが互いに接触しないという効果を実質的に挙げうることに変りはないこと。(筆軸挿入溝を前方に向かつて漸次拡開する構造としたことは、筆軸の形状に即応しうるようにするとともに、右効果を期待したものと理解するほかはなく、また、被告の各製品が右効果を挙げうることは被告の自認するところである。)。

(二) 乙登録実用新案との比較において

(1) 第一物件においては、孔蓋盤裏面の下側縁に突設された側壁に二個の逆U字状凹陥部が凹設されているが、それは隔壁の各間隙と相まつて筆軸を二個所で保持しうる位置にはなく、第二物件には逆U字状凹陥部に相当する構造は全くないこと。

(2) 右構造により、第一物件は乙登録実用新案が目的とする前記二の(五)の(1)の作用効果をあげることはできるが、同(2)の作用効果をあげることはできず、第二物件は右二の(五)の作用効果を挙げることができないこと。

(三) 丙登録実用新案との比較において

第二物件は、二つのパレツト皿盤を蝶番で連結しており、丙登録実用新案の要部を構成する前記二の(六)の構造をもつ係合装置を具備せず、丙登録実用新案が目的とする前記二の(七)の作用効果を挙げることができないこと。

四 被告の各製品が本件各登録実用新案の技術的範囲に属するかどうか。

(一) 被告の各製品と甲登録実用新案とを対比するに、前掲二及び三の各認定事実から明らかなように、前者はいずれも後者の要部をなす前記二の(一)の構造をすべて具備し、それにより後者が目的とする前記二の(二)の作用効果をすべて挙げることができるから、被告の各製品は甲登録実用新案の技術的範囲に属するものといわなければならない。

被告は、突出枠が後端部において連続することも甲登録実用新案の必須要件であることを前提として、被告の各製品は、甲登録実用新案と構造上は勿論、作用効果上においても相違するから、その技術的範囲には属しない旨主張するが、突出枠が後端部において連続することは甲登録実用新案の必須要件でないこと前説示のとおりである以上、仮に被告主張のような差異があるとしても、被告の右主張は、その前提において、すでに理由がないものというほかはない。

なお、第二物件における突出壁は、その断面が別紙目録(三)添付孔蓋盤の断面図に示すような形状をしている点において、前掲甲第一号証(甲実用新案公報)の図面のそれとは異なるが、甲登録実用新案においては突出枠の断面の形状につき特段の限定がないから、右断面の形状の相違をもつて、第二物件が甲登録実用新案の技術的範囲に属しないものとすることはできない。

(二) 被告の各製品と乙登録実用新案とを対比するに、前掲二及び三の各認定事実から明らかなようにに、前者はいずれも後者の要部をなす前記二の(四)の構造を欠き、後者が目的とする前記二の(五)の作用効果の全部又は一部を挙げることができないから、被告の各製品は乙登録実用新案の技術的範囲に属しないものといわなければならない。

(三) 第一物件が、丙登録実用新案の技術的範囲に属することは当事者間に争いがない。

(四) 第二物件は、前認定のような構造であり、したがつて、丙登録実用新案が目的とする前記二の(七)の作用効果を挙げることができないものであるから、丙登録実用新案の技術的範囲に属しないこと明らかである。(三宅正雄 武居二郎 佐久間重吉)

別紙 目   録 (一)

上部皿盤イの縁側に上方に向つて開口せるU字状の係合孔1、1′を穿設した受部2、2′を突設し、これに連続して両側縁に内方への凹陥部3、3を凹設すると共に、同縁側の中央部寄りの上半部に扁平状の突出縁4を設け、同突出縁4の背面中央に閊止壁5を突設すると共に、下部皿盤ロの縁側はこれを外側に催々突出せしめてその両端に突出部6、6′を設け、さらにこの突出部6、6′間に上記側縁を斜下方に延長せしめて係合縁7を構成し、上記側縁と係合縁7との間に段部8を設け突出部6、6′の外方には、係合突子9、9′を突設すると共に、同皿盤ロの下面中央に閊止壁10を構成し上下各皿盤イ、ロにおいて係合孔1、1′に係合突子9、9′を凹陥部3、3′に突出部6、6′をそれぞれ嵌入せしめ、また突出縁4の下面に係合縁7を嵌合して成る係合装置を有し、親指挿入孔11の蓋板12裏面下側縁に側壁13を突設し、この側壁13に数個の逆U字状の凹陥部14、14を構成すると共に、同裏面に前方へ向けてそれぞれ開放する端部を欠截せる連続V字状突出枠15、15を突設し、筆軸挿入V字状溝16、16を形成せしめて成るパレツト。(一)

別紙 目   録 (二)

パレツト皿盤(1)の拇指挿入孔(4)の孔蓋盤(5)の裏面に前方へ向けてそれぞれ開放する後端欠截連立V字状突出枠(7)(7)を突設し筆軸挿入後端欠截V字状溝(8)(8)を形成せしめて成るパレツト

(尚添附図面中(2)はパレツト皿盤、(3)はパレツト皿盤(1)(2)を連結する蝶番、(6)は孔蓋盤(5)に設けた係合突子である)

別紙 目   録 (三)<省略>

(注甲実用新案の登録請求の範囲――図面に示すように、パレツト皿盤1の拇指挿入孔4の孔蓋盤5の裏面に、前方へ向けてそれぞれ開放する連立V字状突出枠7・7を突設し、筆軸挿入V字状溝8・8を形成せしめてなるパレツトの構造

乙実用新案の登録請求の範囲

――本体1における親指挿入孔2の蓋板3裏面下側縁に側壁4を突設し、この側壁4に逆U字状の凹陥部5……の多数を構成すると共に、同裏面に隔壁6……の多数を突設せしめて成るパレツト

丙実用新案の登録請求の範囲

――上部皿盤イの縁側に、上方に向つて開口せるU字状の係合孔1、1′を穿設した受部2、2′を突設し、これに連続して両側縁に内方への凹陥部3、3′を凹設すると共に、同側縁の中央部寄りの上半部に扁平状の突出縁4を設け、同突出縁4の背面中央に閊止壁5を突設すると共に、下部皿盤口の縁側はこれを外方に僅々突出せしめてその両端に突出部6、6′を設け、さらに、この突出部6、6′間に上記側縁を斜下方に延長せし※

※めて係合縁7を構成し、上記側縁と係合縁7との間に段部8を設け、突出部6、6′の外方には係合突子9、9′を突設すると共に、同皿盤口の下面中央に閊止壁10を構成し、上下各皿盤イ、ロにおいて、係合孔1、1′に係合突子9、9′を凹陥部3、3′に突出部6、6′をそれぞれ嵌合せしめ、また、突出縁4の下面に係合縁7を嵌合して成るパレツト等における係合装置)

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